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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)827号 判決

原告

山京ビルディング株式会社

右代表者代表取締役

村松喜平

右訴訟代理人弁護士

飯塚俊則

被告

久保至

右訴訟代理人弁護士

杉崎明

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡せ。

二  被告は原告に対し、昭和六一年一〇月五日から前項の建物明渡済みまで一か月金二二万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は被告に対し、昭和六一年八月一九日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件貸室」という。)を左記約定で賃貸し(以下「本件契約」という。)、これを引渡した。

(一) 使用目的  事務室

(二) 期間  昭和六一年八月二五日から昭和六三年八月二四日までの二四か月間

(三) 賃料  一か月金二二万三〇〇〇円

(四) 無催告解除事由

file_3.jpg被告の信用が著しく低下したとき、あるいは公序良俗に反する行為があったとき。

file_4.jpg近隣の賃借人に著しく迷惑をかけるおそれのあるとき。

file_5.jpgその他本件契約条項並びにビル使用規程に違反し又は履行しないとき。

(五) 違約金

被告は、本件契約の解除に基づき本件貸室の明渡をなすべき日時に明渡をしないときは、明渡をなすべき期日から明渡済みに至るまで違約金として一か月につき所定月額賃料の二倍に相当する金額及び付加使用料、共益費を毎月原告に支払う。

2(一)  被告は、当初から本件貸室でテレホンクラブの営業を行う意図であったのにこれを秘し、ツーバイフォーの建築資材販売目的の会社の事務所に使用する旨原告に説明して、本件貸室につきその使用目的を偽って原告との間で本件契約を締結したうえ、本件貸室を本件契約に定められた事務室という用法に違反して、「元町クラブ」なる名称を用いたテレホンクラブとして使用している。

(二)  テレホンクラブなるものは、デートクラブが売春防止法違反等で相次いで摘発されたため、昭和六〇年末ころから登場した新しい性風俗関連産業であり、男性客のテレホンクラブを利用する主たる目的が、個室内の電話で女性と猥褻な会話をしたり、デートの誘いをし、性的交渉を持つことにあること、またテレホンクラブに電話をかけてくる女性の約八割が中・高校生であり、これらの者の中にはテレホンクラブの顧客である男性に乱暴されたり、猥褻行為をされたものが多数存在すること、右顧客の中には青少年保護育成条例違反で逮捕された者もいること等、テレホンクラブの存在は大きな社会問題となっており、被告の本件貸室におけるテレホンクラブの営業は公序良俗に反する行為である。

(三)  被告が本件貸室でテレホンクラブを営業することにより、本件貸室が入っている「6山京ビル」(以下「本件ビル」という。)のイメージが侵害されるだけでなく、本件貸室内に不特定多数の男性客が出入りし、右男性客から、他の賃借人の関係者が誘いを受けたり、因縁をつけられたりする被害が生じているほか、本件ビルの他の賃借人である日能研等の学習塾に通う子供達に及ぼす悪影響も計り知れないものがある。また、被告の営業開始後、本件ビル内の便所の汚れがひどく、被告の顧客がエレベーター内につばを吐いたりするなどするため本件ビルの汚れも通常ではない状態であり、被告の行為は、本件ビルのイメージダウンを招来するのみならず、本件ビルの他の賃借人にも多大な迷惑を及ぼしている。現に、原告のもとには、本件ビルの他の賃借人から、被告が本件貸室でテレホンクラブを営業していることについて苦情が寄せられており、五〇一号室の賃借人であった横浜システム制御株式会社(以下「横浜システム制御」という。)は、原告との間の右賃貸借契約を解約し、本件ビルから退去するに至っている。

(四)  以上のような被告の行為は、原告との間の信頼関係を破壊する背信行為である。

3  そこで、原告は被告に対し、昭和六一年一〇月四日被告に到達した内容証明郵便で、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

4  被告は、原告の右解除の意思表示到達後も、本件貸室の所定月額賃料及び付加使用料、共益費を支払うのみで、本件貸室の明渡をしない。

よって、原告は、被告に対し、本件契約の解除による終了に基づき本件貸室の明渡を求めるとともに、本件契約終了の日の翌日である昭和六一年一〇月五日から一か月金二二万三〇〇〇円の割合による違約金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2の(一)のうち、被告が本件貸室を「元町クラブ」なる名称を用いたテレホンクラブとして使用していることは認めるが、その余は否認する。原告は、不動産仲介業者である日本不動産興業株式会社(以下「日本不動産興業」という。)の従業員高瀬陽子(以下「高瀬」という。)から、被告が本件貸室で「元町クラブ」なる貸電話業を営むことを告げられているうえ、本件貸室を細かく間仕切り、電話回線を一二本以上引くことについての被告の申し入れにも了解を与えているのであるから、被告が本件貸室をテレホンクラブとして使用することを熟知し、右使用を了承して本件契約を締結したものである。

3  同2の(二)は否認する。被告は、「元町クラブ」の運営に当たり、厳格に男性会員を審査しており、一八才以上の男性を会員とし、入会時には必ず身分証明書等の提示を求め、ない場合には入会を拒否し、かつ紳士的交際を強く指導している。したがって、「元町クラブ」においては過去に何らのトラブルも発生しておらず、また中・高校生の女性からの電話は全くなく、健全な運営がなされているのであって、被告の本件貸室におけるテレホンクラブの営業はなんら公序良俗に反するものではない。

4  同2の(三)は否認する。被告のテレホンクラブの営業が本件ビルの他の賃借人にことさら迷惑を及ぼしているようなことは全くなく、今日に至るまで他の賃借人や原告から被告が直接苦情を受けたことは一度もない。現に、被告の入居後、本件ビルの入居状況はかえって良くなっており、横浜システム制御が本件ビルから退去したのも、実態は、手狭になったための本社移転に過ぎない。

5  同3及び4は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2の(一)の事実中、被告が本件貸室を「元町クラブ」なる名称を用いたテレホンクラブとして使用していることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、次の事実を認めることができ、〈証拠〉中、右認定に反する部分はこれを措信することができない。

(一)  被告は、横浜市中区尾上町で「元町クラブ」の名称でテレホンクラブを経営していたところ、横浜駅西口周辺でテレホンクラブを経営するため貸室を探すうち、原告所有の本件ビル八〇三号室(以下「八〇三号室」という。)が貸事務所として借主を募集中であることを知り、昭和六一年八月一日、不動産仲介業者である日本不動産興業の従業員である高瀬を介し、原告に対し、八〇三号室を賃借したい旨申し込んだ。これに対し原告から、八〇三号室については既に申込者があるため被告は二番手になるが、それでよければ「借室申し込み書」を送るので記入のうえ返送してほしい旨の回答があり、右申し込み用紙がファックスで日本不動産興業宛に送付された。被告は、右「借室申し込み書」の会社概要欄の会社名に「(株)トライヤーズ(以下「トライヤーズ」という。)」、代表取締役氏名に「石川信(以下「石川」という。)」、業務内容に「一般建築(2×4建築)輸入建築材料の販売」との記載をなし、あたかもトライヤーズが貸室を使用するような形式の申し込み書(甲第一二号証)を作成して原告に送付するとともに、翌二日、再度高瀬を通じ、原告に八〇三号室の賃借を申し込んだ。その際、高瀬から原告の担当者である岡村敏夫(以下「岡村」という。)に対し、貸室の使用目的につき、ツーバイフォーの建築資材等の販売のための事務所として使用するものであること、賃借条件につき、電話回線が一二本以上必要となることが告げられたが、貸室をテレホンクラブとして使用することについての話は一切なかった。岡村は右被告の申し込みに対し、被告と面談したいので一度来社されたい旨を高瀬を通じて被告に連絡し、被告もこれを了承して、同月六日原告を訪ねる旨岡村に伝えた。

(二)  岡村は、同月六日、来社した被告に対し、八〇三号室については既に賃借人が決まってしまったことから、同じ契約面積である本件貸室を紹介するとともに、被告から提出された「借室申し込み書」(甲第一二号証)の内容を被告に確認した。その際、被告は岡村に対し、トライヤーズの建築資材等の販売部門を行う会社を新たに設立すべく準備中であり、右会社の事務所として本件貸室を使用するが、まだ右会社が設立されていないので、被告個人の名前で賃貸借契約を締結したい旨説明した。これに対し岡村は、被告が説明するように本件貸室をトライヤーズの販売部門を行うために設立する会社の事務所として使用するのであれば、賃貸借契約の連帯保証人にはトライヤーズの代表者である石川になってもらいたいこと、また、原告で審査した結果賃貸借契約を締結する場合には、賃借人となる被告及び連帯保証人となる石川の住民票と印鑑証明書、それにトライヤーズの印鑑証明書と会社登記簿謄本の提出が必要となることを被告に告げ、本件貸室の間取り図を被告に交付した。

(三)  その後、原告では、被告について銀行及び信販調査を行い審査をしたが、審査の結果が芳しくなかったことから、更に信用調査のため、同月一二日、岡村は高瀬を通じて被告に、被告及び連帯保証人となる石川の経歴書を送るよう依頼し、翌一三日被告から右経歴書(甲第一三号証)の送付を受けた。右被告の経歴書には、「現在、株式会社桜井興業(不動産取引業、貸ビル業他)に在籍中のまま、株式会社トライヤーズの輸入2×4法住宅及び輸入建築資材の営業、販売部門開設準備に関与」との被告が前に岡村に説明した内容と一致する記載がなされており、当時被告が経営していた尾上町のテレホンクラブ「元町クラブ」(以下「元町クラブ関内店」という。)の記載は全くなされていなかった。

原告では、被告から送付を受けた経歴書(甲第一三号証)を審査し、社内で検討した結果、被告が申し込み当初から首尾一貫した説明をしていることもあって、本件貸室についての被告の賃借の申し込みを承諾することに決定し、同月一八日その旨を高瀬を通じて被告に連絡した。

(四)  そして翌一九日、契約締結のため、被告、石川及び高瀬が原告を訪れたが、その際、岡村から石川に、本件貸室を被告がトライヤーズの建築資材等の販売部門を行うために設立する会社の事務所として使用する目的で借りることについて確認がなされたのに対し、石川からは、被告の力を借りて事業を広げたい旨のこれを肯定する発言がなされ、更に、被告及び石川から、それぞれ個人の住民票及び印鑑証明書(甲第一四号証の一及び三)とともに、トライヤーズの印鑑証明書(甲第一四号証の二)、会社経歴書(甲第一六号証)、会社登記簿謄本(甲第一七号証)が提出され、原告においてトライヤーズの存在及び石川がトライヤーズの代表であること等について確認がなされたうえで、原告と被告との間で、本件貸室につき、賃貸人を原告、賃借人を被告、連帯保証人を石川とし、使用目的を「事務室」として本件契約が締結され、契約書(甲第一号証)が作成された。

また、右契約締結にあたり、被告から岡村に対し、①本件貸室を細かく間仕切り、電話回線を一二本以上引きたいとの申し入れがなされるとともに、②トライイヤーズの販売部門を行う会社が設立準備中で、まだ会社の称号が決まっていないので、これが決まるまでの間、一時的な称号を使わせてもらいたいとの申し入れがなされ、岡村は、①の申し入れについては特に疑問も持たずこれを了解し、②の申し入れについても、原告では本件ビルの入口の総合案内板、ポスト及びドアプレートに原告指定の業者によって称号を書き入れることになっているため、一応被告に称号使用届の用紙(甲第二七号証)を交付し、称号が決まり次第被告から原告に連絡するということで、右②の申し入れを了承した。

(五)  ところが被告は、同年九月七日「元町クラブ」との名称で本件貸室でテレホンクラブの営業を開始し、ビル入口の総合案内板及びドアプレートに原告の了解をえずに「元町クラブ」と表示し、街頭に立て看板を立て、ビラをまいて顧客の勧誘を行なうなどした。原告は同月九日、本件ビルの他の賃借人から、被告が本件貸室でテレホンクラブを営業しているとの連絡を受け、翌一〇日岡村が本件貸室に赴いて、被告が本件貸室を原告に説明した建築資材等の販売目的のための事務所として使用しておらず、もっぱらテレホンクラブの営業のために使用していることを確認した。

原告では、テレホンクラブとしての使用は不特定多数の顧客が出入りする「店舗」としての使用となると考えており、本件契約に定められた「事務室」としての使用目的に明らかに反することから、同月一七日被告に来社を求めて話し合ったが、被告が当初からテレホンクラブをやるつもりであったし、このまま営業を継続する旨述べたため、結局話し合いは物別れに終った。

原告は、被告が本件貸室をテレホンクラブに使用するのであれば、本件ビル全体の品位が損なわれるだけでなく、不特定多数の客が出入するため責任の所在がつかめなくなり、転貸の可能性も高くなることなどから、本件契約を締結することはなかったものであって、このまま被告が本件貸室でテレホンクラブの営業を締続すれば、本件ビル全体のイメージダウンは避けられず、本件ビルの他の賃借人の精神的損害も大きくなるとの判断から、昭和六一年一〇月四日被告に到達の内容証明郵便で、被告に対し、本件貸室での被告のテレホンクラブの営業が本件契約に定められた使用目的に違反するうえ、公序良俗にも反し、他の賃借人に多大な迷惑を及ぼすことを理由に本件契約を解除した。

以上の事実を認めることができる。

2 ところで、被告は、「原告は、被告が本件貸室をテレホンクラブとして使用することを熟知し、右使用を了承して本件契約を締結した」旨主張し、その理由として、①原告は高瀬から、被告が本件貸室で「元町クラブ」なる貸電話業を営むことを告げられていたこと、②原告は、本件貸室を細かく間仕切り、電話回線を一二本以上引くことについての被告の申し入れに了解を与えていること、の二点を挙げる。しかしながら、右①の点については、証人高瀬及び被告本人の供述中にはこれに副う供述部分があり、また、被告が昭和六一年八月一日、日本不動産興業に提出した「入居申込書」(乙第二号証)にはその営業種目欄に「輸入建材の販売」と並べて「貸電話業」との記載があり、更に、高瀬が記載した電話連絡帳(乙第三号証)にも被告からの連絡欄に「元町クラブ」との記載がなされていることが認められるけれども、他方、被告が原告に提出した「借室申し込み書」(甲第一二号証)、「経歴書」(甲第一三号証)には「貸電話業」との記載も「元町クラブ」との記載も一切ないこと、また、「元町クラブ」、「貸電話業」といった実態不明の業種が原告に告げられたとすれば、当然、原告としては高瀬なり被告なりにその説明を求めたであろうこと等前記1に記載の証拠によって認められる諸事実に照らすと、右①の点についての前記高瀬及び被告の供述はにわかに措信しがたく、また、前記乙第二、第三号証の記載もこれのみでは右①の事実を認めるには足りないというべきであって、他に右①の事実を認めるに足る証拠もない。なるほど、②の事実については、前記1で認定したとおりこれを認めることができるが、右②の事実から直ちに、被告が本件貸室をテレホンクラブとして使用することを原告において了知していたというには足りないというべきであり、他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠もないから、結局、前記被告の主張は採用することができない。

なお、被告は、当初の計画では本件貸室を建築資材等の販売目的の会社の事務所とテレホンクラブの両方に使用するつもりであったが、本件契約締結の際、本件貸室の契約面積が共用部分を含むものであることがわかり、右会社事務所部分として計画していた面積が取れなくなったため、やむなく本件貸室をテレホンクラブのみに使用するようになった旨供述し、証人高瀬の供述中にもこれに副う供述部分がある。しかしながら、前記1記載の証拠によると、本件契約締結の際、被告から、本件貸室の契約面積が狭いとの話があったことは認められるものの、被告は、設立準備中と説明していた右建築資材等の販売会社を実際には設立していないばかりでなく、本件契約締結に際し右会社の事務所として本件貸室を使用するのをやめたことを原告に告げていないこと等が認められるのであって、これらの事実と前記1で認定した事実とを併せ考えると、右被告及び証人高瀬の供述はにわかに措信しがたい。

3 右1で認定の事実によると、本件契約においては、当事者間で、本件貸室をトライヤーズの建築資材等の販売部門を行うことを目的として被告が設立する会社の事務所に使用することが約されたものということができるところ、被告は、実際は本件貸室をテレホンクラブの営業のために使用する意図であるのにこれを秘し、原告には右のとおり建築資材等の販売を行なう会社の事務所として使用するといってその使用目的を偽り、本件契約を締結したものと推認するに十分である。

したがって、被告が本件貸室をテレホンクラブとして使用したことは、原告との間の本件貸室の使用目的に関する約定に反するものといわざるをえない。

4 そして、〈証拠〉によると、請求原因2の(二)の事実中、被告の本件貸室におけるテレホンクラブの営業が公序良俗に反する行為であるとの点を除いたその余の事実を認めることができる(なお、本件全証拠によっても、被告の本件貸室におけるテレホンクラブの営業が公序良俗に反する行為であることを認めるには足りない。)。

また、右認定の事実に、〈証拠〉によると、(1)本件貸室でテレホンクラブの営業がなされることにより、その風俗関連産業としての実態から、本件ビル全体の品位が損なわれるだけでなく、テレホンクラブに対する警察の取締り強化にともない、テレホンクラブに絡んだ犯罪の摘発を受けたり、本件貸室に対する捜索がなされたりするといったビルの所有者にとって由々しき事態が生じることが予想されること、(2)現に、本件契約解除直後、被告は「元町クラブ」の経営者として、労働基準法違反、横浜市屋外広告条例違反の容疑で神奈川県警の取調を受けるとともに、「元町クラブ関内店」が捜索を受け、これが昭和六一年一一月一五日付けの新聞紙上で報道されるに至っていること、(3)このようなことから、テレホンクラブを営業する者がビルの一室を賃借していると、他の貸室に優良な賃借人の入居を確保することが困難になるとしてテレホンクラブに部屋を貸すことを嫌う家主は多く、原告も、前記1で認定したとおり、被告が本件貸室でテレホンクラブを営業するとわかっていれば、被告に本件貸室を賃貸することはなかったこと、(4)本件ビルには、株式会社東京こども教育センター、日能研といった教育関係の賃借人が入っていて、被告が本件貸室でテレホンクラブを営業していることについて、右賃借人の経営する学習塾に子供を通わせている父兄からの苦情がこれら賃借人を通じて原告のもとに持ち込まれているばかりでなく、本件ビルの大半の賃借人が自社のイメージダウンによる精神的苦痛をうったえて被告の本件ビルからの退去を求める要求書を原告に提出していること、(5)右賃借人のうち、横浜システム制御は、本件貸室で被告がテレホンクラブを営業していることも一つの理由として原告に賃貸借契約の解約を申し入れ、本件ビルから退去するに至っていること等の事実を認めることができる。被告本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分は措信しない。もっとも、前記証人岡村敏夫の証言によると、本件ビルの入居状況については、被告が本件ビルに入居した昭和六一年八月当時には空室が四室か五室あったのに対し、本件貸室で被告がテレホンクラブの営業を始めた後である昭和六二年一一月時点での空室は一室のみであることが認められるけれども、この一事から直ちに前記認定を覆すには足りない。

5  以上認定の事実を総合すると、前記3に記載の被告の本件貸室の用法違反行為は、賃貸人である原告との信頼関係を破壊し、賃貸借関係の継続を著しく困難にするものということができる。

三そして、請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、本件契約は、前記二の5の事由により昭和六一年一〇月四日有効に解除されたものというべきであるから、被告は原告に対し、本件契約の解除による終了に基づき本件貸室を明渡す義務がある。

四また、請求原因4の事実は当事者間に争いがないから、本件契約の違約金の約定により、被告は原告に対し、昭和六一年一〇月五日以降本件貸室明渡済みまで違約金として一か月につき所定月額賃料の二倍に相当する金額(金四四万六〇〇〇円)及び付加使用料、共益費を毎月原告に支払うべき義務があるところ、原告は本訴において右金額と、被告が毎月原告に支払っている所定月額賃料(二二万三〇〇〇円)及び付加使用料、共益費との差額金二二万三〇〇〇円の支払を求めているので、被告は原告に対し、違約金として右金額を支払う義務があるというべきである。

五よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官土居葉子)

別紙物件目録

所在 横浜市西区南幸二丁目八番地九

家屋番号 八番九

種類 事務所車庫

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根八階建

一階 411.62平方メートル

二階 456.97平方メートル

三階 496.65平方メートル

四階 496.65平方メートル

五階 478.98平方メートル

六階 434.87平方メートル

七階 434.87平方メートル

八階 393.13平方メートル

右のうち、六階六〇四号室 73.64平方メートル

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